4ヶ月、3週と2日

「いやー良かった!ミスト良かった!」と、久々の映画館に大興奮した事の次第は、ripping yardに書きますが、それですっかり味をしめた私MCATMさんは、そのまま次の週に、パルムドールを取った「4ヶ月、3週と2日」を観に行ってしまいました。これもルーマニアの映画。

ルームメイトの違法中絶を救う為に、周囲の人間に振り回される女主人公=オティリアが味わう悲惨な一日の物語。パルムドールを取るのも納得の、スコーンと分かりやすい快作ではないが、幾重もの問題提起がドスンとみぞおちに入る感じで、しばらく考え込んでしまうような作品。ここでは、中絶問題/無理解/チャウシェスク独裁政権という絶望、等の諸問題が、タペストリーのように紡がれていて、複雑な連関を織りなしている。

概ね登場人物の全てが、危機感か倫理観か、もしくは配慮のどれかを決定的に欠いていて、その根本にはチャウシェスク政権下の鬱屈した生活感がある。例えばルームメイト=ガビツァの危機感の欠如は、無邪気な悪意無き無理解として主人公に突き刺さってくるし、文脈は違えど、交際相手の思慮の無さも同様である。そのイライラする感覚を女主人公と共有するだけの映画なので、最後までスッキリすることなく、その点では全くお勧め出来るような映画ではないのだが、とにかく考えさせられる映画を見る耐性がある人にはお勧め。

中途の交際相手の家での食事のシーンは、この映画の一番ショッキングな部分を捉えたものではないかもしれないが、個人的にはなんと分かりやすくルーマニアという国が持っている問題、そして人間の持つ基本的なコミュニケーション不全(そしてもっと言うのならば、世代間の壁)を、まさにえぐり出すような表現で描いており、屈指の名シーンと言えるのではないかと思う。カサベテス「こわれゆく女」のように、印象深い固定カメラの素晴らしい映像だった。