こわれゆく女

こわれゆく女 [DVD]

こわれゆく女 [DVD]

もー死ぬ程良かった。こんな映画、本当に存在するんだね…。

精神病みが進行していく妻の事を、心配しながらも無骨な対応しか出来ない夫の行動が、更に事態を悪くしていくんだけど、その様子を下品にえぐるという手法を採る代わりに、徹底的な第三者視点と長いシークエンスで静的に描き切っている。

ティムのトークで、小津安二郎の事を「アメリカ人は基本的に第三者目線で描くから、一人称視点のカメラワークにはビックリしたし、クレイジーだと思った」と言う事を語っていたのですが、多分アメリカ人の視点って「神目線」なんだろうなー、って大学の時学んだ気がするんだけど、文献あったっけ?

そういう意味では、この映画の視点って、「神視点」などではなく、地に足の着いた「人目線」であって、もっと言えば「観客目線*1」。だから、カメラはふらふらとオブジェクト間を行き来するし、肝心なものは何も見えていなかったりする。

視線を遮断するツールとしての、居間と寝室を遮る大きな引き戸も実に効果的に機能していた。

あと、ジョンのサンの昔の日記にもあったと思う(それがすげーキザな日記で笑った覚えがあるんだけど、この映画じゃなかったかなあ)んだけど、妻を中心にした食事会の様子を歪な構図で捉えたショットがあって、参加者は皆見切れている中、妻による妻の為の会はつつがなく進行していくんだけど、どうしようもない孤独と隔たりを感じさせる画だった。

こういう心理を炙り出すような描写を延々続けて、長いシークエンス、長いシーンを作り上げていく様は、凄く誠実だなあと感嘆してしまった。このやり方だと、失敗も成功もあるだろうけど、凄い高次元で実を結んでいるのが素晴らしい。最高の映画体験でした。

*1:観客目線ってのは当たり前の方法論なはずなんだけど、それを実現する為に制作者は「神視点」を使う。それとは違う、純粋な意味での観客目線。