パフューム ある人殺しの物語

これは凄かった。凄い凄いと聞いていたけれども、いつもの惹句だろう、実際そんなヒットしていないんだから、所詮宣伝文句だろうとタカをくくっていたのですが、これが俺も一緒に観た画伯も絶句の素晴らしい内容でした。5ブラボー。

まずは圧倒的な映像美。正確に言うと映像「醜」なんですけれども、18世紀のフランスを描くにあたって、徹底的にその汚さ(信じられないぐらい汚い。観ている方が風呂に入りたくなるぐらい)と臭さ(勿論匂いはしませんが、伝わってきます)を再現してみせるという、まーーーー何の役にも立たない情熱が、ここで開花しています。髪の毛にズームしていき、その奥に蠢くウジ虫が見える…といった、手の込んだCGなどの最良の方法で描かれた、見るも汚らわしい醜悪な環境がこの物語の重要なベースとなることは言うまでもありません。

主人公は、おそらく多くの人が「愛」という名で解釈するであろう感情を、そのあまりに悲惨な半生から学び取ってこれなかったが故に、その感情をねじ曲がった形で捉えてしまいます。この「パフューム」は、そうした悲劇の物語であって、そして(僕は気づかなかったんですが、巧妙に仕掛けられ、例え気づかなくても立派に映画が成立してしまうぐらいの、程よいバランス感覚でもって仕掛けられたストーリーテリング上の罠!)同時に喜劇でもあります。凄く複雑なレイヤー構造を持っているにも関わらず、それを感じさせないプロット展開の妙があります。

欠点がまるで無い、2007年に生まれた大傑作でした。未見の方は是非お試しあれ!

(この映画を作った人々には全く責任が無いのですが)惜しむらくは、この映画を日本で宣伝される際に、センセーションを煽るため、ラストの重要なシーンを流しまくっていた点ですね(CMでも!馬鹿じゃねえの!?)。ああいう、醜悪なジャーナリズムは、最早ジャーナリズムでもないし、ましてや宣伝でも無い。ネタバレがあったからと言って、この映画の価値が下がるわけでは無いと思いたいですが、結末は容易に予想できたので、何も知らなかった場合よりは衝撃度に劣るだろうな…と思うと、悔しくてなりません。